Index
- はじめに
- 経費精算(従業員が領収書、請求書を受領)におけるインボイス制度対応要件
- 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる9つの取引
- 帳簿の記載要件
- システム対応、自動化におけるポイント
- 設定
- 経費精算の運用方法
- 制度移行時のデータ修正
はじめに
2023/10/1より開始されるインボイス制度では、売上プロセス(自社が請求書を発行)と調達プロセス(自社が請求書を受領)の両面に対応する必要があります。ここではインボイス制度における調達プロセスのうち、従業員が行う経費精算(従業員が領収書、請求書を受領)の運用方法について説明します。
調達プロセスは、消費税の納税額に影響し、会社の損益に影響を及ぼすため、売上プロセスよりもある意味重要性は高いと言えます。消費税の区分の多さ、経過措置における会計処理の複雑さから工数がかかるとともに、ミスが起きやすい業務で、自動化の効果が大きい領域です。
経費精算における運用では、以下がポイントとなります。
- 仕入先の登録事業者の区分及び登録番号の管理
- 経過措置にかかる会計処理における税抜金額と仮払消費税の計算
- 消費税申告に必要な税区分の自動設定
- 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引
仕入先が登録事業者か否かにより会計処理、消費税申告が異なりますので、業務上のミスをなくし自動化するためには、仕入先マスタの管理が重要となります。しかし、経費精算においては、一般的に仕入先マスタを作成しません。
経費精算を行うことが多い、旅費交通費や少額の取引については、適格請求書等の保存を要せず、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められています。
また、一般社員はインボイス制度で必要な税区分や上記の特例についての知識はないため、運用負荷を減らし、ミスを減らすシステム支援が必要となります。
経費精算(従業員が領収書、請求書を受領)におけるインボイス制度対応要件
適格請求書等保存方式(インボイス制度)においては、仕入税額控除の要件として、原則、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存が必要となります。
適格請求書とは、次の事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)をいいます(新消法 57 の4①)。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
- 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額をいいます。以下同じです。)
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
インボイス制度においては、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています(28年改正法附則52、53)。なお、経過措置を適用できる期間等は、次のとおりです。 令和5年10月1日から令和8年9月30日までは、仕入税額相当額の80%。令和8年10月1日から令和11年9月30日までは、仕入税額相当額の50%。
上記における経過措置期間中は、法人が税抜経理方式で経理している場合において、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、支払対価の額のうちインボイス制度導入前の仮払消費税等の額の80%相当額(令和8年10月1日から令和11年9月30日までは、仕入税額相当額の50%)を仮払消費税等の額とし、残額を取得価額として法人税の所得金額の計算を行うことになります(新経理通達3の2、経過的取扱い(2))。
帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる9つの取引
上述した通り、インボイス制度において仕入税額控除が認められるには、原則、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存が必要となります。
しかし、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、 一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(新消令49①、新消規15 の4)。
以下の中で経費精算との関係性が強いのは、1(出張旅費特例)、2(入場券等回収特例)、7(自動販売機・自動サービス機特例)、8(郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス)、9(出張旅費特例)です。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例)
- 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除きます。)(入場券等回収特例)
- 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の取得
- 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(自動販売機・自動サービス機特例)
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)(出張旅費特例)
*1 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定する(インボイス通達3-9)。したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することはしない。3人分の運送役務の提供を行う場合には、3人分の金額で判定する。なお、急行料金や寝台料金は、旅客の運送に直接的に付帯する対価として、この特例の対象になる。一方、入場料金や手回品料金は、旅客の運送に直接的に付帯する対価ではないため、特例の対象にはならない(インボイス通達3-10)。
*2 出張旅費、宿泊費、日当については、所得税基本通達9-3により所得税が非課税となる範囲内で認められ、通勤手当については通勤に通常必要と認められるものであればよく、所得税法施行令20条の2に規定される非課税とされる通勤手当の金額を超えているかどうかは問わない(インボイス通達4-9、4-10)。
帳簿の記載要件
帳簿の記載事項に関し、通常必要な記載事項に加え、次の事項の記載が必要となります。
- 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
- 例:①に該当する場合、「3万円未満の鉄道料金」または「公共交通機関特例」
- ②に該当する場合、「入場券等」または「入場券等回収特例」
- 仕入れの相手方の住所又は所在地(一定の者を除きます。)
- 例:⑦に該当する場合、「〇〇市 自販機」、「××銀行□□支店ATM」
(注) 帳簿に仕入れの相手方の住所又は所在地の記載が不要な一定の者は、次のとおりです(インボイス通達4-7)。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者
- 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等
- 上記③から⑥の課税仕入れ(③から⑤に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、⑥に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限ります。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方
システム対応、自動化におけるポイント
一般社員はインボイス制度で必要な税区分や上記の特例についての知識はないため、運用負荷を減らし、ミスを減らすシステム支援がコスト削減、税務リスク軽減のためには重要です。
税区分も勘定科目も売上側と比較するとその数が多いため、人力によるコスト、税務リスクは大きくなります。(ツバイソPSAの税区分においては、約110件のうち100件弱が仕入税額控除にかかる税区分。)
そのためには、以下のマスタによる自動化がポイントとなります。
- 経費精算原因マスタ
- 税区分マスタ
上述した帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引については、以下にかかる経費精算原因マスタを作成し、選択することで自動的に帳簿の「摘要」に以下の項目を自動記録します。
- (公共交通機関特例)
- (入場券等回収特例) 仕入れの相手方の住所または所在地:
- (自動販売機・自動サービス機特例) 仕入れの相手方の住所または所在地:
- (郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス)
- (出張旅費特例)
また、経費精算原因マスタにより、税区分が適切に設定されていることを前提に、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、以下のような経理処理を自動的に行います。
勘定科目 | 金額 | 税区分 | 勘定科目 | 金額 | 税区分 |
交際費 | 30,600円 | 課税売上分経過措置仕入(80%控除)(10%) | 現金 | 33,000円 | 対象外 |
仮払消費税等 | 2,400円 | 対象外 |
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仮払消費税等の計算(2,400 = 33,000 * 0.1 / 1.1 * 0.8)が適格請求書発行事業者と異なります。
設定
経費精算原因マスタ
【経費精算原因マスタ】に未登録事業者の経過措置用の「税区分マスタ[未登録事業者]」を設定してください。
経費精算明細登録時に、仕入先の事業者区分(インボイス制度)が「未登録事業者」の場合に経費精算原因マスタの「税区分マスタ」に優先して「税区分マスタ[未登録事業者]」が使用されます。
税区分マスタ
経過措置の税区分に経過措置割合を設定してください。管理会計情報となる【経費精算明細】おける「金額(税抜)」が経過措置の原則法で計算されます。
ツバイソERPに連携した場合は、ERPにおける仕訳が、税区分マスタにより原則法で計算されます。
ツバイソPSAの標準の税区分マスタに既に設定済みのため、通常は設定不要です。
※インボイス制度対応前のバージョンからバージョンアップする場合は、税区分マスタの追加が必要です。(税区分マスタ(インボイス制度対応用).xlsx)
経費精算の運用方法
経費精算におけるインボイス制度対応としては、以下がポイントとなります。
- 仕入先が未登録事業者の場合に経過措置用の税区分マスタを設定できること
- 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引を選択でき、帳簿の記載要件を自動追加できること
登録事業者からの仕入の場合
事業者区分(インボイス制度)、仕入先登録番号(インボイス制度)を登録します。
これにより経理チェックにおけるインボイス制度対応の確からしさを担保します。
未登録事業者からの仕入の場合
事業者区分(インボイス制度)に「未登録事業者」を登録します。
経過措置用の税区分マスタが自動設定されます。
帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引の場合
出張旅費特例などの原因名を選択します。原因説明にどのような取引が該当するかが表示されます。
事業者区分(インボイス制度)、仕入先登録番号(インボイス制度)は登録不要(任意)です。
制度移行時のデータ修正(2023/10前後の作業)
ツバイソPSAでは、上述したマスタを設定することにより、それ移行作成されたデータはインボイス制度に対応しますが、マスタ設定前に作成したデータはインボイス制度に対応していません。
上述したように、経費精算におけるインボイス制度対応は、以下がポイントです。
- 仕入先が未登録事業者の場合に経過措置用の税区分マスタを設定できること
- 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引を選択でき、帳簿の記載要件を自動追加できること
税区分マスタは経費精算明細作成時の「仕入先事業者区分(インボイス制度)」によって設定されます。2023/10/1以降の計上月の経費精算明細については、以下の項目をリストビューで確認して、未登録事業者については、経過措置用の税区分マスタに修正してください。
- 税区分マスタ
帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引はインボイス制度開始前から運用しても不都合はないため、これにかかる経費精算原因マスタをあらかじめ登録して運用を開始しても構いません。