はじめに
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、これらを合わせて「収益認識基準」という)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用となりました。
収益認識基準は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することを基本原則としています(企業会計基準第29号 第16項)。収益認識基準そのものの解説は他に譲り、ここでは収益認識基準に対応したデジタル化の方法、考え方を説明します。
4種類の収益認識方法
収益認識基準では以下の5つのステップを適用し収益を認識することを求めています(同 第17項)。
- 顧客との契約を識別する
- 契約における履行義務を識別する
- 取引価格を算定する
- 契約における履行義務に取引価格を配分する
- 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する
以下は、収益認識基準の[設例1]の図ですが、業務プロセスのデジタル化の考え方としてもこれが分かりやすいので引用して説明します。
上図のステップ1で受注時に契約を認識していますが、ステップ5の収益認識においては履行義務単位となっていることに注目してください。従って、データモデル上は、受注(契約)を構成する受注明細単位で収益認識の方法を設定できるようにします。一方、受注明細で個々に収益認識の方法を設定することは、実務上、日々の業務を行うユーザには難しいこと、通常は商品・サービス毎に収益認識の方法をあらかじめ設計できることから、商品・サービスマスタにデフォルトの収益認識の方法を持たせることで自動化します。
収益認識基準のステップ5では、履行義務の充足を一時点と一定期間の2つに分類していますが、検収、期間、タイムアンドマテリアル、進行基準の4種類に分けた方が、契約、業務管理、会計処理方法の違いから実務上は合理的ですし、一般のビジネスマンには馴染みやすく運用がスムーズになります。
以下、4つの収益認識の特性をまとめましたので参考にしてください。
【収益認識の特性】
項目/収益認識の方法 | 検収 | 期間収益 | T&M収益 | 進行基準 |
概要 |
財又はサービスの顧客に対する納品行為と顧客の検収行為があり、通常、検収をもって収益・債権を認識する。 工事契約やソフトウェア開発契約などで、納品までの間、進捗度をインプット法により見積り、収益・債権を認識し、顧客の検収行為によって最終的な収益・債権を認識する進行基準の場合も最終納品は検収とする。 |
期間に対して契約単価が設定されており、期間の経過にしたがって収益・債権を認識する。 サブスクリプション形式のサービスも含む。 |
あらかじめ定めた契約単価に実際に発生した時間や量を乗じて計算した収益・債権を認識する。 従量料金など。 |
工事契約やソフトウェア開発契約などで、納品までの間、進捗度をインプット法により見積り、収益・債権を認識し、顧客の検収行為によって最終的な収益・債権を認識する。 債権は顧客との契約から生じた債権(売掛金等)とは別に、契約資産として別勘定で認識する。 |
業務の特徴 |
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契約類型 |
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契約期間 |
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履行義務の充足タイミング |
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3種類の費用認識方法
費用認識の方法も、収益認識基準と同様の考え方で、検収、期間、タイムアンドマテリアルの3種類に整理して契約、業務管理、会計処理するのが合理的です。
以下、3つの費用認識の特性をまとめましたので参考にしてください。
【費用認識の特性】
項目/費用認識の方法 | 検収 | 期間費用 | T&M費用 |
概要 |
財又はサービスの自社に対する納品行為と自社の検収行為があり、通常、検収をもって費用/資産・債務を認識する。 |
期間に対して契約単価が設定されており、期間の経過にしたがって費用・債務を認識する。 サブスクリプション形式のサービスも含む。 |
あらかじめ定めた契約単価に実際に発生した時間や量を乗じて計算した費用・債務を認識する。 従量料金。 |
業務の特徴 |
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契約類型 |
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契約期間 |
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履行義務の充足タイミング |
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業務プロセスのパターン
ツバイソPSAは、上記で説明した機能を、【受注】、【納品】、【期間収益】、【T&M収益】、【発注】、【検収】、【期間費用】、【T&M費用】で実装しています。
これらに、【請求】、【売上】、【支払】、【仕入経費】、【制作指図】の機能を組み合わせて、自社に合わせて業務プロセスを設計することができます。
以下、典型的な業務プロセスパターンを掲載しておきますので、自社の業務プロセスの設計の参考にしてください。下に行くほど複雑なパターンになります。
新しいサービスや事業の立ち上げには、業務プロセスの設計も必要となりますが、以下を一通り理解することで、組み合わせにより適切な業務プロセスを作成することができるようになります。
パターン | 売上プロセス | 調達プロセス | 制作プロセス | 備考 | ||||||
会計 | 回数 | 入金 | 回数 | 会計 | 回数 | 支払 | 回数 | 数 | ||
基本形 |
検収 | 1 | 後 | 1 | 検収 | 1 | 後 | 1 | N/A | |
基本形の一部業務省略 |
検収 | 1 | 後 | 1 | 検収 | 1 | 後 | 1 | N/A | 即発注 |
分割納品 |
検収 | n | 後 | 1 | 検収 | n | 後 | n | N/A | |
前払い |
検収 | 1 | 前 | 1 | 検収 | 1 | 前 | 1 | N/A | |
複数の調達 |
検収 | 1 | 後 | 1 | 検収 | n | 後 | n | N/A | |
複数の受注 |
検収 | n | 後 | n | 検収 | n | 後 | n | N/A | |
案件の親子管理 |
検収 | n | 後 | n | 検収 | n | 後 | n | N/A | |
期間収益、期間費用 |
期間 | n | 後 | 1 | 期間 | n | 後 | n | N/A | |
期間収益、期間費用(前払い) |
期間 | n | 前 | 1 | 期間 | n | 前 | n | N/A | |
T&M収益、T&M費用 |
T&M | n | 後 | 1 | T&M | n | 後 | n | N/A | |
組み合わせ |
検収 期間 T&M |
1 n n |
後 前 後 |
1 1 n |
検収 期間 T&M |
省略 | 省略 | 省略 | N/A | |
制作プロセス |
検収 | 1 | 後 | 1 | 省略 | 省略 | 省略 | 省略 | 1 |
受注:制作:調達 = 1:1:n 制作に関わらない調達あり |
分割制作、分割納品 |
検収 | n | 後 | 1 | 省略 | 省略 | 省略 | 省略 | n |
受注:制作:調達 = 1:n:n 制作に関わらない調達あり |
収益なし、原価のみ発生 |
N/A | N/A | N/A | N/A | 省略 | 省略 | 省略 | 省略 | n |
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販管費 |
N/A | N/A | N/A | N/A | 検収 | 1 | 後 | 1 | N/A |
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進行基準 |
進行 | n | 前、中、後 | 3 | 省略 | 省略 | 省略 | 省略 | 1 |
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複数の取引先の受注を1案件として管理 |
検収 | 1 | 後 | 1 | 省略 | 省略 | 省略 | 省略 | 1 |
受注:制作:調達 = n:1:n 1つの案件で得意先が異なる複数の受注 受注と調達がn:n |
社内取引による独立採算管理会計 |
検収 | 1 | 後 | 1 | 検収 | 1 | 省略 | 省略 | 1 |
親案件:案件 = 1:n |
案件グループ共通費 |
検収 | n | 後 | n | 検収 | n | 後 | n | n |
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1-1 基本形(検収のみ、後払いのみ)
卸売りのように、受注して発注し、納品するというシンプルなパターンです。請求や支払いも後払いで、全て1:1の対応です。まずは基本形から、業務プロセスモデル図の見方を把握してください。
「案件」で「見積」を1つ作成し、その見積から「受注」を作成します。受注から1つの「調達」を行うために、「調達依頼」「見積依頼」「発注」「検収」を行います。仕入れた商品を顧客に「納品」し検収してもらいます。「売上」は納品(顧客の検収)を、「仕入経費」は自社の検収をエビデンスとして、他の取引とともにまとめて計上します。また、「請求」は納品(顧客の検収)を、「支払」は自社の検収をエビデンスとして、これも他の請求や支払いとまとめて行います。
この基本形で重要なことが2つあります。1つは、「売上」と「仕入経費」のエビデンスとなる「納品」と「検収」が明確に存在することです。これらがなく、「受注」から直接「売上」や「発注」から直接「仕入経費」を計上するシステム設計は内部統制上はお勧めできません。納品(顧客検収)や自社検収をいつ、どの部門の誰が、職務分掌(承認プロセス)に従って行なったかのエビデンスが必要だからです。これらのエビデンスをもとに職務分掌の異なる経理部門が会計上の「売上」「仕入経費」を作成する必要があるためそれぞれ分離されている必要があります。
2つ目は、そもそも納品するのか、検収するのか、その期日、支払条件(前払い、後払い、回数、時期、支払い方法など)の契約条件をエビデンスとして「納品」「検収」「請求」「支払」が作成されていることです。「受注」「発注」に必要十分な契約根拠を持つことが重要で、これにより漏れなく、適時に正しい業務をスムーズ行えるようになります。必要十分な契約情報をデータベースで持つことで、業務の自動化、デジタル化が可能となるため、その基礎となる「受注」と「発注」は重要です。
上記の結果、ツバイソERPに以下の仕訳が計上されます。
作成元 | 計上日 | 借方 | 貸方 | 金額 | 取引先 | 部門 | セグメント | 入出金予定日 |
売上 | X1/4/10 | 売掛金 | 売上高 | 100 |
得意先C |
部門1 | X, Y, Z | - |
入金予定 | X1/4/10 | 売掛金 | 売掛金 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | X1/5/31 |
仕入経費 | X1/4/10 | 仕入高 | 買掛金 | 70 | 仕入先S | 部門2 | X, Y, Z | - |
支払予定 | X1/4/10 | 買掛金 | 買掛金 | 70 | 仕入先S | 部門2 | X, Y, Z |
X1/5/31 FBデータ作成 |
銀行(ERP) | X1/5/31 | 現金預金 | 通過勘定 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | - |
販売管理(ERP) | X1/5/31 | 通過勘定 | 売掛金 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | 入金予定日を元に自動消込 |
銀行(ERP) | X1/5/31 | 通過勘定 | 現金預金 | 70 | 仕入先S | 部門2 | X, Y, Z | - |
購買管理(ERP) | X1/5/31 | 買掛金 | 通過勘定 | 70 | 仕入先S | 部門2 | X, Y, Z | 支払予定日を元に自動消込 |
1-2 基本形の一部業務省略
「1-1 基本形」から「調達依頼」「見積依頼」を省略し、即発注を行なっているパターンです。基本形は「見積」や「調達依頼」「見積依頼」といった全ての業務があるパターンですが、取引によっては決まった取引先でカタログがあるようなケースなど、これらの業務を省略する場合があります。そのような場合にも柔軟に業務を省略できる必要があります。
1-3 分割納品
一つの「受注」に対して複数の「納品」とそれに対応する複数の日付で「売上」が計上されるパターンです。上記のケースでは、納品は複数月で行うものの「請求」は一括で後払いする例です。また、「調達」側も複数の「検収」とそれに伴う複数日付での「仕入経費」を計上する例です。この例では、「支払」はそれぞれの月で支払います。
このケースでわかるように、「売上」と「請求」、「仕入経費」と「支払」は、タイミング、金額が必ずしも一致しないため、分けて管理できる必要があります。そしてその根拠は「受注」「発注」の契約情報に存在することが重要です。
1-4 前払い
これは「1-1 基本形」の前払いのパターンです。前払い、すなわち支払条件は「受注」「発注」で契約として定められています。契約にて、「納品」「検収」といった履行義務を果たさなくても一定の期日に支払うことが定められているため、業務システム上も「請求」「支払」の根拠は、「納品」「検収」ではなく(そもそも納品、検収は請求、支払時には存在しません。)、「受注」「発注」であり、ここから作成します。「1-1 基本形」と異なり、「請求」「支払」への線が「受注」「発注」から引かれていることに注目してください。なお、「受注」「発注」から前払いの「請求」「支払」を作成した場合は、その「受注」「発注」から作成した「納品」「検収」は「請求済み」「支払済み」のステータスとなり二重請求、二重支払がされないように制御されます。
システムの設計によっては「1-1 基本形」にしか対応していないシステムが多いです。すなわち、「請求」するためには「納品」または「売上」、「支払」をするためには「検収」または「仕入経費」を必須とし、その場合に前払いが行えず、仕方ないので運用回避的な例外処理となり、論理的に理解しにくい業務プロセスとなっている場合があります。例外処理は人間の判断を入れる必要があり、自動化の阻害要因となります。
上記の結果、ツバイソERPに以下の仕訳が計上されます。(前受金の納品のみ例示)
作成元 | 計上日 | 借方 | 貸方 | 金額 | 取引先 | 部門 | セグメント | 入出金予定日 |
入金予定 | X1/4/10 | 前受金 | 前受金 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | X1/4/30 |
銀行(ERP) | X1/4/30 | 現金預金 | 通過勘定 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | - |
販売管理(ERP) | X1/4/30 | 通過勘定 | 前受金 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | 入金予定日を元に自動消込 |
売上 | X1/5/31 | 前受金 | 売上高 | 100 |
得意先C |
部門1 | X, Y, Z | - |
(発展)前受金30、売掛金70の場合は、以下の仕訳が計上されます。
作成元 | 計上日 | 借方 | 貸方 | 金額 | 取引先 | 部門 | セグメント | 入出金予定日 |
入金予定 | X1/4/10 | 前受金 | 前受金 | 30 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | X1/4/30 |
銀行(ERP) | X1/4/30 | 現金預金 | 通過勘定 | 30 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | - |
販売管理(ERP) | X1/4/30 | 通過勘定 | 前受金 | 30 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | 入金予定日を元に自動消込 |
売上 | X1/5/31 | 売掛金 | 売上高 | 100 |
得意先C |
部門1 | X, Y, Z |
決算月の場合は前受金と相殺し、翌月洗い替え |
入金予定 | X1/5/31 | 売掛金 | 売掛金 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | X1/6/30 |
入金予定 | X1/5/31 | 前受金 | 前受金 | -30 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z |
X1/6/30 前受請求時にマイナスの請求が自動作成 請求書は、100と-30の2明細で合計70の請求 |
銀行(ERP) | X1/6/30 | 現金預金 | 通過勘定 | 70 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | - |
販売管理(ERP) | X1/6/30 | 通過勘定 | 売掛金 | 100 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | 入金予定日を元に自動消込 |
販売管理(ERP) | X1/6/30 | 通過勘定 | 前受金 | -30 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | 入金予定日を元に自動消込 |
1-5 複数の調達
一つの受注に対して、複数から調達してまとめて納品するパターンです。当月に商品・サービスを納品する場合はこのモデルになりますが、複数月に跨る場合は、「制作プロセス」として明確に管理し、棚卸資産の計上を行います。
また、上記は、「見積依頼」を複数社に対して行い、そのうちの一社に発注している例です。
1-6 複数の受注
一つの案件で、複数の受注を管理しているパターンです。
「受注」では、受注単位の予算、売上、原価、損益を管理し、「案件」では複数の受注の合計として予算、売上、原価、損益を管理します。
1-7 案件の親子管理
複数の案件を一つの親案件で管理するパターンです。
複数の案件の予算、売上、原価、損益をレポートで集計して管理することができます。
ツバイソPSAでは3階層まで集計可能です。
2-1 期間収益、期間費用
契約及び実態より、「期間収益」「期間費用」で業務プロセスを管理するときのパターンです。「期間収益」「期間費用」は契約によって収益や費用が発生する期間(XX/XX/XX〜XX/XX/XX)、金額、月数(年数)が確定しており、これは「受注」「発注」で管理します。この「受注」「発注」の契約情報をもとに、契約月数分の「期間収益」「期間費用」を予め作成します。その後、期間の経過に伴い確定した「売上」「仕入経費」を職務分掌に応じて経理部が一括作成します。「受注」「発注」「期間収益」「期間費用」の管理は、別途、職務権限がある部門が管理します。
上記の例では、「請求」については、契約に基づいて、計上日にかかわらず後日一括請求としています。一方、「支払」については、契約に基づいて、毎月支払いとしています。
2-2 期間収益、期間費用(前払い)
「2-1 期間収益、期間費用」の前払いのパターンです。
「期間収益」「期間費用」の前払いには、一括前払いと、月額前払いがあります。一括前払いは、「1-4 前払い」と同様に「受注」「発注」から「請求」「支払」を作成します。一方、月額の前払いについては、予め契約情報に基づいて作成した月額金額の「期間収益」「期間費用」から作成し、各「期間収益」「期間費用」の請求済み、支払済みステータスで漏れを管理します。上記は、「請求」は一括前払い、「支払」は月額前払いの例です。
上記の結果、ツバイソERPに以下の仕訳が計上されます。(前受収益の期間収益のみ例示)
作成元 | 計上日 | 借方 | 貸方 | 金額 | 取引先 | 部門 | セグメント | 入出金予定日 |
入金予定 | X1/4/10 | 前受収益 | 前受収益 | 1,200 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | X1/4/30 |
銀行(ERP) | X1/4/30 | 現金預金 | 通過勘定 | 1,200 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | - |
販売管理(ERP) | X1/4/30 | 通過勘定 | 前受収益 | 1,200 | 得意先C | 部門1 | X, Y, Z | 入金予定日を元に自動消込 |
売上 | X1/5/31 | 前受収益 | 売上高 | 100 |
得意先C |
部門1 | X, Y, Z | - |
売上 | X1/6/30 | 前受収益 | 売上高 | 100 |
得意先C |
部門1 | X, Y, Z | - |
売上 | X1/7/31 | 前受収益 | 売上高 | 100 |
得意先C |
部門1 | X, Y, Z | - |
3 T&M収益、T&M費用
契約及び実態より、「T&M収益」「T&M費用」で業務プロセスを管理するときのパターンです。「T&M収益」「T&M費用」は契約によって収益や費用が発生する期間(XX/XX/XX〜XX/XX/XX)、単価、月数(年数)が確定しており、これは「受注」「発注」で管理します。この「受注」「発注」の契約情報をもとに、契約月数分の「T&M収益」「T&M費用」を予め作成します。「T&M収益」「T&M費用」は、単価は決まっていますが、数量は実績値なので、契約時点では金額は確定していない点が期間収益や期間費用と異なります。(確定はしていませんが見込み額/予算は管理していることが多いため、毎月の「見込み金額」を計上し予算管理することができます。)
毎月、この業務を管轄する部門が実績値を測定し確定させ、必要に応じて顧客の検収を受けます。その後、職務分掌に応じて「売上」「仕入経費」を経理部が一括作成します。
上記の例では、「請求」については、契約に基づいて、計上日にかかわらず後日一����請求としています。一方、「支払」については、契約に基づいて、毎月支払いとしています。
4 組み合わせ
これまでは、「納品」と「検収」、「期間収益」と「期間費用」、「T&M収益」と「T&M費用」に前払いや後払いのパターンでしたが、実務上はこれらを組み合わせて業務プロセスを作ります。上記は、調達は省略していますが、調達もこれまで見てきた様々なパターンを組み合わせることができます。
5-1 制作プロセス
これまでは、収益と費用が月次で対応している、または、社内の人件費については個別原価計算をしない簡便的なケースでした。今回は、これまでの売上プロセスと調達プロセスに加えて、制作プロセスを組み合わせたパターンを見てみましょう。
これまでと異なり、受注から「制作指図」を作成し、プロジェクトマネージャが「配員」や「経費精算」のための予算を作成します。協力会社など外部調達についてはこれまでと同様に「調達依頼」などを行いますが、「制作指図」から作成することで制作指図単位で原価集計できるようにします。
「納品」はこれまでと異なり、「制作指図」から作成し、完成を持って納品し、顧客に検収してもらいます。
「制作指図」に紐づけて集計された原価は【原価計算票】で毎月集計され、設定した【原価会計処理方法】によって「制作指図」の状態(未完成、完成、引き渡し)と作成物の特性による会計処理(仕掛品、ソフトウェア仮勘定、研究開発費、売上原価など)が行われます。
上記は、「受注」から「調達」が作成されていますが、これは受注内容のうち、一部は自社制作、一部は制作プロセス外の調達の例を示しています。
5-2 分割制作、分割納品
「5-1 制作プロセス」において、「受注」に対して複数の「制作指図」で制作管理し、複数に分けて「納品」するパターンです。
5-3 収益なし、原価のみ発生
収益が発生せず、原価のみ発生するパターンです。
自社制作ソフトウェア、研究開発、自社制作ソフトウェアの修繕(メンテナンス)、マーケティング・営業活動、採用活動など様々な原価計算を行いたい場合に使用します。
原価計算の結果としての会計処理は、【原価計算票】に設定した【原価会計処理方法】によって自動的に行うことができます。
5-4 販管費
販管費に使用するパターンです。
「案件」を作成せずに、「調達依頼」から調達プロセスを開始します。調達依頼の次のプロセス「見積依頼」または「発注」が作成されたときに、調達専用案件として「案件」「調達」が自動作成され、システム上は一まとまりの案件・調達プロセスとして管理されます。
6 進行基準
進行基準とは
進行基準は、工事契約やソフトウェア開発契約などで、納品までの間、進捗度をインプット法により見積り、収益・債権を認識し、顧客の検収行為によって最終的な収益・債権を認識する方法をいいます。進行基準にかかる債権は顧客との契約から生じた債権(売掛金等)とは別に、契約資産として別勘定で認識します。ツバイソPSAでは、【商品・サービス】で収益認識の方法や使用する【債権債務マスタ(販売)】を設定します。
進行基準による業務の流れ
進行基準の場合でも、「見積」「受注」「制作指図」からの納品計画による「納品」の作成までは同じです。使用する「商品・サービス」の「収益認識の方法」は「検収」を使用します。
以下、「収益認識に関する会計基準の適用指針」の[設例9]を使用して説明します。
[設例9]前提条件(詳細は上記リンクを参照)
(1) A 社(12 月決算会社)は、X1 年 11 月に、3 階建ての建物を改装して新しいエレベー ターを設置する契約を 5,000 千円の対価で B 社(顧客)と締結した。
(2) 取引価格と予想原価は、次のとおりであった。
(単位:千円)
- 取引価格 5,000
- 予想原価: エレベーター 1,500
- その他の原価 2,500
- 合計予想原価 4,000
制作指図から納品レコードを作成
【制作指図】を「制作予算:2,500(= 4000 - 1500)」を設定して作成します。
【制作指図】から、「検収予定日(売上計上予定日):X2年6月30日」、「合計金額(税抜):3,500(= 5000 - 1500)」の【納品】レコードを作成します。
原価計算票で集計値を更新
【原価計算票】でX1年12月31日までの集計期間で「集計値を更新」します。これにより【制作指図】の「制作原価(原価計算票)」に500が転記され、「進捗度」が20%(= 500 / 2500)と計算されます。
なお、【原価計算票】に設定する【原価会計処理方法】は「未完成時の資産性」のチェックを外します。進行基準の収益認識に対応する原価は発生時に原価計上するためです。
納品(進行基準)を作成
「(制作指図)納品(進行基準)を作成」を実行し、「売上計上日:X1年12月31日」を設定します。【商品・サービス】で「収益認識の方法」が「進行基準」となっているものが表示されるため適切なものを選択します。
これにより、「検収日(売上計上日):X1年12月31日」、「合計金額(税抜):700(= 3500 * 20%)」と「検収日(売上計上日):X2年6月30日」、「検収予定日(売上計上予定日):X2年6月30日」、「合計金額(税抜):-700」の【納品】レコードが2つ作成されます。
なお、エレベータは【受注】から直接【納品】レコードをX1年12月31日に1,500作成します。また、【受注】から調達プロセスにより【検収】レコードをX1年12月31日に1,500作成します。
以上で[設例9]が実現できます。
2ヶ月目以降の処理
2ヶ月目以降も同様に、原価が発生し、それにより「進捗度」が更新され、「(制作指図)納品(進行基準)を作成」を実行します。
これにより、X2年1月31日に収益金額Z(= 3500 * 進捗度)、X2年6月30日に-Zの【納品】レコードが作成されます。同時に、X2年1月31日に-700、X2年6月30日に700の【納品】レコードが作成されます。
この赤伝、黒伝(マイナス、プラス)によって各月の収益が計上されていきます。
完成引渡時の処理
最初に納品計画で作成した【納品】レコード「検収予定日(売上計上予定日):X2年6月30日」、「納品金額(税抜):3,500」を実績に修正します。また、納品書、検収書はこの【納品】レコードから作成します。
管理会計による実績値と予測値の把握
【管理会計】には、以下の要領で実績値と予測値が集計されます。
実績値は、「納品」から作成した「売上」と「制作指図」から売上高と原価を会計計上月で集計します。
予測値は、「納品」から売上予定を「検収予定日(売上計上予定日)」に計上します。原価は、「制作原価予算残(制作指図)」から集計し、「引渡予定日」に計上します。これにより、進行基準売上と原価の計上に伴い引渡予定月の売上、原価予測値は減少していきます。
詳しくは、進行基準にかかるチュートリアルを参考にしてください。
7 複数の取引先の受注を1案件として管理
展示会や番組制作など、複数の顧客(スポンサー)と契約し、制作、納品するパターンです。
これまでは、「受注」1に対して、nの「納品」「制作指図」「調達」のパターンを見てきましたが、「受注」と「納品」「制作指図」「調達」などが、n:1やn:nで、さらに得意先が別の受注を1つの案件でまとめて損益管理する業務プロセスを設計することもできます。
8-1 社内取引による独立採算管理会計
社内取引の概念により独立採算管理会計を行うことができます。詳細は、社内取引による独立採算管理会計の方法をご参照ください。
8-2 案件グループ共通費
複数の案件を親案件でまとめて管理し、かつ、この案件グループに関する共通費を管理するパターンです。案件グループ共通費を親案件に紐づけることで、親案件全体で集計した時にはコストとして集計されますが、子案件の直接費とはなりません。親案件の「制作指図」に関連していない「調達」は期間費用など、「制作指図」単位で原価管理せず「案件」として原価管理する場合にこのような構造にします。
参考資料
上記の図の元ファイルを提供します。業務プロセスの検討にご利用ください。